【なりたい自分】



 熱心に修行をする弟子に、あまり勤勉とは言えない師匠は尋ねた。
「そんなに頑張って、いってぇ何になりたいんだ?」
 それなりに三忍として名を知られる彼は子供達の憧れの的でもある。自分のようになりたいと言ってもらえるとは思わないが、それに近いものを期待した問いだった。里にはそれなりに名の知られた忍びがいる。憧れる者は目指す者だ。この弟子がどのくらいの場所を目指しているのか聞きたくなるのも仕方ないことだろう。それ程までに彼の修行に対する態度はその才能と共に他の追随を許さないでいた。
「火影様っ!!」
 元気良く答えた子供に、自来也は目を丸くする。
「そりゃまたでっけぇ夢だのう。で、何でだ?」
「この里が好きだからっ」
「ほう」
「火影様はこの里に何かあったら、命を懸けて守るんでしょ。だったら、オレもそんな忍になりたい!」
 興奮しながら言う姿は年相応で微笑ましく、自来也の口元にも自然笑みが浮かんだ。
「その為にはいっぱい修行せんとなぁ」
「だからこうやってしてるのに、先生が怠けてるんでしょ。オレはもっといっぱい術を覚えたいのに!」
 頬を膨らませる弟子に、立場が悪くなった自来也はゴホンと咳払いをした。
「……ちゃんと教えとるだろうが」
「あ、そうだ。先生。オレ、新しい技作ったんですよ!」
 自来也の反論もそこそこに、金色の頭を上げて少年は言った。自来也は自分の話を聞かない弟子に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、それでもすぐに弟子の言葉に興味を示す。
「どんな技を開発したって?」
「見てて下さい」
 そう言って少年は掌を前へ伸ばし、その上にチャクラを練り始める。しばらくすると、そのチャクラは渦を巻き始めた。
(ほう…)
 自来也は感心したように弟子の新技に目を凝らす。
 渦は球になり、強大な力が封じ込まれる。
「いきますよ」
 少年は的を射るように瞳を眇めると、手近にあった木の幹にその塊を叩き付けた。
 巻き起こる風圧に目を開けていられず、自来也は腕で顔を覆う。封じ込められていた風が弾けた跡には、太い幹に抉り取られたような跡が残った。
「…どうですか?」
 少しだけ息を乱した少年が、嬉々として自来也に尋ねる。
(…ったく、大したヤツだのう)
 遊びのように新しい術を開発する弟子に、自来也は肩を竦めて笑った。
「今のは何てぇ技だ?」
 師匠の中で合格点を貰えたのだろう。そのことに気づき、少年は明るい顔を見せると、
「球の中でチャクラを螺旋のように回転させるから、『螺旋丸』って名付けました」
 彼が生み出した技の名を披露する。
「そうか。掌でチャクラを練り、それを溜め込んで相手にぶつける」
 先程少年がやってみたように、自来也は自らの掌で実践してみせる。 見事に写された自身の技に、少年は悔しいと言うよりも尊敬の眼差しで師を見つめた
「やっぱり先生は凄いなぁ。オレが開発した術をすぐに覚えちゃうんだから」
「そう簡単に弟子に追い抜かれて堪るかってぇの」
 弟子の額を指先で弾くと、自来也は「おめぇもまだまだだからのう」と付け足した。
 実際には彼の力量に舌を巻いていたのだが、それを言ってしまうには早すぎる。彼の力も、志も、もっと高みへとを目指せるだろう。
 元々の資質とその心の在り方はこの少年を未来の火影とするに十分で、自来也もまた少年の成長が楽しみで仕方なかった。
「うんとうんと強くなりたいなぁ。まずは先生みたいに」
 自来也を見上げ、少年は笑いながら宣言する。きっと、その言葉はそう遠くない将来叶えられることだろう。
「まずって言うからには次があるってことだのう」
 自分よりも強い忍など早々いないことを知りながら、自来也が先を促せば、
「次は火影様」
 告げられたのは予想通りの言葉。
「三代目は強いぞ」
「知ってますよ。だって、先生の先生ですからね」
 それは少年が自来也の強さを知り、尊敬しているからこそ出る言葉で、自来也は照れ隠しをするかのように頬を掻いた。
「オレは火影様のように強くなる。そうしたら、沢山の人を守れるでしょ?」
 真っ直ぐな眼差しは強い願いを映し出している。
「大切な人を失ったり、大切な人達が哀しんだりしないように…オレは強くなりたい」
 難しいことだが、叶えようと願う者がいなければ叶うものでもない。
 そして、大切な者の為に強くなろうとするのならば、そこに果てなど無いだろう。
 自来也はこの目の前の弟子を誇らしかった。
「なれるさ」
 金色の髪に手を置き、自来也は弟子の頭を撫でる。
「お前ならのう」
 言われた言葉に少年は嬉しそうに微笑んだ。

 願いは叶う──そのすべてを賭けて。

 その心を、残された者たちに鮮やかに焼き付けて。








四代目と自来也。この師弟の修業時代とか知りたいです。
『少年少女の心20のお題』(配布元サイト様「少年の空 少女の花」)より