【ひとり】




 親の情など知らぬから、
 その温かさを知らぬから、
 比べることなど知らず、

 ──一人で立つことが当然であった。

 アレハナニ?

 自分と同じ背丈の子供が呼ぶ。

 オトウサン?
 オカアサン?

 小さな手を取る大きな手。
 あたたかくて優しいその存在。無条件で自分(こども)を愛してくれる人。

 自分には無いもの。

 知らないことを哀しいと思う気持ちさえ無かった。
 それがどういうものかを知らないから。

 無いことを、寂しいと思う気持ちを知ってしまえば弱くなる。

 それをどれだけ自分が欲していたとしても。

 本当は叫びだしたい気持ちを、胸の内に押し込める。

「一人でも大丈夫だってばよ」

 唇を噛みしめて呟いた言葉。

 どれだけ愛されていたかを知らずに。
 目の前の光景を自分には縁のないものなのだと見守る。





『辛いなぁ…』

 傍にいられないことも。そんな想いを味わわせていることも。見守ることしか出来ないことも──それらすべてが針のように心を突き刺す。

『こんなに大切なのに、オレが彼に与えたものは何て残酷な運命なんだろうね』

 何よりも大事な大事な愛しいこの子のために。
 里を守らなければならないと、そう思った。
 大事な人達が暮らしている自分の里。
 この子が育っていくこの里。

『いつか知ってもらえる日が来るのかな?』

 自分がどれだけ彼を愛していたかを。
 どれだけ彼が愛されていたかを。

『出来れば、自分の言葉で、態度で、いくらでも飽きるぐらいに教えてあげたかったよ』

 暗い檻の中で想う。
 大切な存在のことを。

 暗闇の中で願う。
 出来るだけ沢山の光が彼に降り注ぐことを。

 どれだけ辛いことが起こっても、それを乗り越えていける強さを。

 いつか、心からの笑みが彼に宿るように。

『今のオレにはそれしか出来ないから…』

 暗い檻の中で、何も出来ない無力さを噛みしめる。

 置いて逝かれた者の寂しさ。
 置いて逝った者の哀しさ。

 共に等しく、胸を穿つ。








失うことも辛いですが、最初から無いという気持ちを知っていることも辛い気がします。
『少年少女の心20のお題』(配布元サイト様「少年の空 少女の花」)より