【泣くものか】



 おぼつかない足取り。大きな頭をふらふらさせながら歩く小さな柔らかい生き物。
「あっ」
 思わず声を上げてしまうのは見ている方で。
「うっ」
 見ていた対象はかすかな声を上げて、ペチャリと転んだ。
「あ〜あ…」
 近寄って覗き込めば、泣きそうに歪んだ顔。
「痛かったねー」
 脇に手を入れて引き上げると、目の前で頭が横に振られた。
「…ちゃくない」
「ん?」
 小さな声で呟かれた意味に首を傾げれば、今度ははっきりとした声が告げる。
「いちゃくないってばよ」
「……」
 唇を噛み締めて紡ぎ出された言葉に、思わず目を見開いてしまう。
「……そっか。痛くない…か」
 転べばすぐに泣いていた子供が、いつの間にかこんな風に成長していたのかと思うとくすぐったくて、笑みが零れた。
「ナル君は強い子だね」
「んっ」
 頭を撫でれば、その下で大きく頷く。大きな瞳には涙が滲んでいるけれど、あと一歩のところでそれは踏みとどまって零れ落ちることはない。
 小さいけれど、気丈な心。
 その姿がどうしようもなく愛おしくて、その小さな柔らかい身体を抱きしめた。
「とーちゃ?」
 いつもと抱きしめる腕の力が違ったからか、ナルトは父親に不思議そうに問いかける。
「ん、これはご褒美」
 それを正直な気持ちで返せば、ナルトは小首を傾げた。
「?」
「ナル君が強い子で、お父さんが嬉しいから」
「とーちゃにごほーび?」
 もう一度小首を傾げながら小さな掌が頬に当てられる。その感触が可愛くて、四代目の頬は緩んだ。
「そうだね。お父さんにご褒美かな?」
 ナルトの小さな額に自身の額を押し当てながら、四代目は頷く。
(だって、こんな風に育てたのは自分だって思いたいじゃない。だったら、自分へのご褒美だよね)
「ナル君はお父さんにこうされるの好き?」
 一人だけご褒美を貰ってるのが申し訳なくてマシュマロのようなほっぺたに頬を擦り付けながら問いかければ、満面の笑みが目の前に広がり、
「だいちゅき!」
 可愛い声と一緒に細い腕が首に回されて柔らかく抱きしめられた。

 自分へのご褒美はナルトで――ナルトへのご褒美が自分だったら良い。

 そんな傲慢をいとも容易く打ち消してくれる存在に、やっぱり嬉しくて、四代目は抱きしめる腕の力を強くした。








ふわふわのあまあま。どこまでも駄目な親と子(笑)。
『少年少女の心20のお題』(配布元サイト様「少年の空 少女の花」)より