【空を舞う花】
「ナル君、見てごらん」 「ん?」 横を歩く父親に声を掛けられ、ナルトは父親を見上げる。 「空から花が降ってきた」 「花ぁ?」 空から花が降ってくるわけがないと思いながらも、ナルトは父親の指さした場所を見上げた。 「あー…」 チラチラと舞い降りてくる白い物がナルトの目に映る。けれど、それは父親が言うような花ではなかった。 「花じゃないってば、雪だってばよ」 怪訝そうな顔で自分を見つめる息子に彼は優しく笑って頷くと、 「うん。でもね、雪の結晶は六花とも言うんだよ」 彼の言葉もまた間違いでないことを教えた。 「六花?」 「そう。よく見てみると結晶が六個の花弁みたいに分かれているだろう?」 手に取った溶けていない雪をナルトの前に差し出しながら、彼はその由来を教える。雪の結晶は小さいけれど、その形はとても綺麗で、ナルトの目が段々と大きくなっていった。 「ホントだってばよ!」 初めて知ることにナルトは興奮し、そんな息子の表情を見て四代目の口元にも柔らかい笑みが浮かぶ。 「だから、空から降ってくる花なんだよ」 「花…」 ナルトは空を見上げ、降りゆく雪を新たな考えで見つめた。 白い花が空から一面に降り積もるというその想像。 「すぐ溶けちゃうけど、でも、そう思うととっても素敵なものになるよね?」 「うんっ」 大きくナルトは頷き、四代目は息子の頭をそっと撫でた。 「父ちゃんの考えっていつも変わってるってば」 掌に雪を受けながら、ナルトは父親を見上げて言う。 「そう?」 苦笑しながら返せば、ナルトはにっこり笑って頷いた。 「うん。だけど、父ちゃんの考えって好きだってばよ。何だかキラキラするってば」 明るく笑うナルトにどうしようもなく幸せな気分を感じて、四代目は大事な宝物を包み込むように背中から抱き締める。 「父ちゃん?」 ナルトが肩越しに見上げれば、優しく眇められた青い瞳が自分を映しだしていた。 「ナル君が生まれてからずっと、お父さんの世界はいつでも輝いてるよ」 眼前で優しく笑いながら告げられた言葉にナルトの頬が染まる。 いつだってこの父親は、臆面もなくそんな恥ずかしい台詞を、それはそれは幸せそうにナルトに向けて告げるのだ。 「そ、そうだってば?」 父親の言葉に慣れることのないナルトが赤くなった頬を指先で掻きながら照れて返すと、四代目は更に綺麗な笑みを浮かべて頷く。 「ん。ナル君がいるだけで世界がキラキラするんだ。凄いよね」 そうして、聞いてる方がくすぐったくなるような言葉を、彼は心地よさそうに口にするのだ。 「あ…ありがとだってばよ」 嬉しいけれど恥ずかしい言葉に、ナルトは顔を俯かせながら礼を告げる。 そんな息子の様子が可愛くて、四代目の胸の奥底からは幸せな気持ちが込み上げてやむことはない。 (いつの瞬間も、この子の瞳に映る世界が綺麗なものであればいい) 勝手なことかもしれないけれど、そう願ってしまう。 ──忍にとって、それはとても難しいことかもしれないけれど。 「……ナル君は忍になるんだよね?」 「うん! でもって、俺ってば父ちゃんの跡を継いで火影になるってばよ!」 元気に答えるナルトに頼もしささえ感じるけれど、火影というのはそう簡単になれるものでもない。 「火影になるのは大変だよ」 言い聞かせるように言えば、 「父ちゃん、大変そうだもんな」 普段から父親の仕事ぶりを見ているナルトは、うんうんと頷きながら応える。 「それだけじゃなくて…」 思い違いをされているような気がして言い加えようとした四代目の声にナルトの声が重なった。 「でも、俺ってばこの里が好きだから、一番強くなって絶対に守りたいんだってばよ」 快活に笑うその表情に一瞬昔の自分が重なった気がして、四代目はナルトの顔を呆然と見つめる。 (なんだ…) ──口にしなくても、自分の想いはこの子に伝わっていたのだ。 そう思うと何とも言えず嬉しくなってしまって、押さえきれない笑いが零れてしまう。 「父ちゃん?」 そんな父親に訝しげな表情を浮かべたナルトが声を掛けると、四代目は胸の位置にある金の髪をポンポンと撫でた。 「ああ、うん。そうだね」 守りたいものがあるのなら大丈夫。 それだけで、その想いだけで、いつでも白い心でいられるから。 自分が、この傍らにいる存在を守りたいと思うように。 この生まれ育った里を守りたいと思うように。 「ナル君なら、立派な火影になれるよ」 ──だから、綺麗な世界はいつでも君の傍にあることを忘れないでいてね。 |