【遠いようで近い距離】



 
『──出なくて良かったのか?』

 小さな嵐が過ぎ去った後、聞く者に恐怖を抱かせる声が尋ねかける。

「今更オレが出て行ってもどうしようもないからね」

 影から苦笑混じりの若い声。誰もいないと思われたその空間に、もう一つの気配が存在していた。

「それよりも意外だったよ。君がナルトを助けてくれるなんて」
『力を貸さなければ共に死ぬだけだからな──他意などない』

 九つの尾を持った物の怪は、小さな足下の存在に素っ気なく言い捨てた。

「そう?」

 見上げ笑うその顔は、先程来た少年とどことなく似通っている。
 暗闇にも光を灯す金の髪。気丈な色を見せる蒼い瞳。
 だが、確かに違うことはといえば、気配を消していなければ、簡単に気付かれてしまうような存在感。
 彼が、圧倒的な力の持ち主であるということ。

「一緒にいたから情が移ったのかと思ったよ」

 柔らかい声音で、青年はあり得ないような言葉を口にした。
 彼の傍らにいるそれは比類無き非情さを持ち得る物の怪で、彼の命と引き替えにこの場に封印されたものだった。

『そんなもの…』
「ないかなぁ?」

 言葉を継いで問う声は笑いを含んでいて、九尾の妖怪は口惜しげに言葉を噤んだ。
 温和に笑っているこの青年の本当の姿を、九尾は知っている。
 ちっぽけな人間でありながら、自分をこんな場所へ封印するほどの力を持つ存在。
 この場所で永劫に共にいなければならない相手。
 そして、先程訪れた小さな存在はこの憎むべき檻の器。けれど、あの小さな少年の成長は、腹の中で封印されている物の怪にとって一つの楽しみでもあった。

「彼を哀しませている代償は大きいでしょ」

 ぽつりと呟かれた言葉は、物の怪と、そして、自分に対して向けられたもの。

 庇護すべき存在はその誕生と共に失われた。
 そして、その誕生と共に忌み嫌われる運命を背負ってしまった。

 ここにいる存在が――自分が、それを招いた。

 本当は、もっと愛されて良い子供だったはずなのに。

「恨み言を言うワケじゃないけど、ナルトが一人で頑張っているのは君の所為なんだから、いくらでも力を貸してあげてよね」

 泣いても慰める者は傍らに無く、一人でその涙を乾かしてきた小さな子供。
 伸ばせない手がどれだけ口惜しいか。

「傍で見ていて知ってるでしょ?」

 どれだけあの子が強く生きて行っているか。

 返される応えなど期待せず、青年は金の少年が居た場所へ愛しげな視線を送る。


(――強く、強く、誰よりも強くおなり)


「君の行く道に、いつでも光があることを祈ってるから」








タイトルとは逆を行ってるような…(汗)。ブン太親分を最初に呼びだした時の腹の中の捏造話(笑)。九尾もナルトに大概甘いと思います。そして、パパも一緒に腹の中に入ってれば良いと思います。
『少年少女の心20のお題』(配布元サイト様「少年の空 少女の花」)より