【誓い】




 十月十日の慰霊祭は四代目火影と九尾の災厄によって命を奪われた者達の為に行われる魂鎮めの儀式だ。
 里の皆が、その英雄の偉業を称え、その死を悼む。
 また、肉親を失った者達も、儚く散った命を思い、偲んだ。
 ナルトは災厄の最中、生を受けた。正しくは災厄が起こる数時間前のことだ。
(オレの身体、九尾の封印に使われたんだよなぁ…)
 まるで他人事のようにぼんやりと考えながら、ナルトは自身の腹を押さえた。
 そこには里を苦しめた九尾が封じられている。
 小さい頃のナルトはその力が暴走しないよう、慎重にそれらの事実を隠し通しながら育てられた。
 それでも、九尾に肉親を殺された者達はその憎悪を、封印されたナルトに対して向けてきた。
 口には出せない。けれど、その視線が語るのだ――お前の所為で、と。
 ナルトには何故自分が周りから冷たい目で見られているのかが解らなかった。
 理由を知らぬまま、視線に自身の存在を責められる。
 辛くて、辛くて、悔しくて――世の中を呪わなかったわけではない。
 けれども、そう思い込み悲観しきることがなかったのは、それらが全てではなく、必ず優しい救いが傍らに存在していたからだ。
(三代目火影のじぃちゃんや、イルカ先生…それに、サスケやサクラちゃんにカカシ先生…)
 ナルトが育ち、周りとの関わりを持つに連れ、それは大きくなっていった。
 そこから生まれいでた絆はより深く、固いものへとなっていった。
 火影岩を見上げてナルトは思う。
(最初は何でオレが…って思ったけどさ。やっぱり四代目はすげーよな)
 この腹の中に九尾を封印した四代目。
 九尾を封印しなければ、里は崩壊していた。
 封印は四代目の力だけでは足りず、ナルトの身体を使うことになったけれど――。
 四代目はその命を投げ出し、里を守った。生まれたばかりの自分は、そうすることで四代目に確かな手助けを出来たのだ。
(そのおかげでさ、みんなとこうして今一緒にいることが出来る)
 四代目が自分の内に九尾を封印しなければ、その時間も想いも生まれることはなかった。
 大切な存在も、この里も、その時に無くなっていたかもしれないのだから。
 きっと、里を守った英雄もこの気持ちを知っていたから、その命を懸けられたのだろう。
(会ったことねーけどさ、感謝してるってばよ)
 四代目を象った火影岩を見上げながら、ナルトはその口端を上げる。
(オレってば、四代目に負けないような忍者になる為に頑張ってるってばよ)
 口伝えに聞く四代目は素晴らしい火影だったという。ナルトの憧れで、目標で、それはナルトの内に九尾を封印したと知らされた今でも変わることはない。
 四代目は決して、考えなしにナルトに九尾を封印したわけではないだろう。
(きっと、オレに期待してたからって思っていいんだよな?)
 だから、ナルトは四代目を裏切らないよう、その想いを受けて立ってやろうと思う。
(四代目に負けない立派な火影になってみせるから、それまで見守っててくれってばよ!)
 英雄を偲ぶその日に、ナルトはいつも新たな誓いを立てる。
 いつか努力が実を結び、現実となって叶う日まで。

 それがナルトなりの慰霊なのだ。