【電話】



 ジリリリリ ジリリリリ──
 備え付けの電話が鳴る音に、自来也は原稿を書いていた手を止めて受話器を上げた。
「はい、自来也…」
『じーたんっ!!』
 突如耳に飛び込んできた甲高い叫び声。
「じーたんではない。じ・ら・い・やじゃ!」
 声の主に心当たりのある自来也は、見えない相手に言い聞かせるような大声で訂正する。
 ジジイと呼ばれるにはまだ早すぎる年齢の自来也としては、そう呼ばれるのが不本意だったのだ。
 てっきり電話の主が『じ』の付いた覚えている呼び名の相手だと思っていた電話の向こうの存在は、新たに教えられた言葉を必死に繰り返そうとする。
『じ〜…らぁ?』
 ちゃんとは呼ぶことの出来ない辿々しい声に仕方ないかと、自来也はその口元にフッと笑みを浮かべた。
「そうじゃ。ジラじゃ。それで許してやるから、ジジイなどと呼ぶな」
『ナル君、ナル君、お名前言わなくちゃ。自来也にナル君だよーって』
 後ろから元教え子の声が聞こえてくる。今は親馬鹿となり果てたその弟子が、ナルトに話をさせようとしている姿が自来也の目には容易に浮かんだ。
『あっ、あっ、じーら、なるたん…だおっ』
(言わんでも解っとるわい)
 耳に届く可愛らしい声に、知らず自来也の口元の笑みは深くなる。
「おーおー、ナルトか。元気にしとったか?」
『げーき?』
 返された言葉が解らずにナルトがオウム返しに聞くと、後ろからそれを助ける声が聞こえてきた。
『ナル君、元気だよね。パパと一緒に今日もいっぱい遊んだもんっ』
『うんっ。なる、げぇきっ』
 父親の言葉で何となく意味が伝わったのか、ナルトが受話器の向こうで大きく頷く。
「そうかそうか。元気か」
 ナルトが元気なことは解った。だが、それと共に聞き捨てならない台詞まで自来也の耳に入ってきた。
 木ノ葉の里のトップがそんな暇であるわけがない。それが、『一緒に』『今日も』『いっぱい』『遊んだ』などと耳にした日には、彼をその座に後押しした人間としてはこめかみを引きつらせ拳を震わせてしまうのも仕方ないことだろう。
「……ナルト、ちょっとそこにいるヤツに代われ」
『ぱぁぱ?』
「ああ、そうじゃ」
『何ですか、先生?』
 言うが早いか、ナルトと代わった元弟子の声が耳に届くと、
「何ですかじゃねーだろうがっ! この馬鹿弟子がーっ!!」
 自来也は受話器に向かって大きな声で叫んだ。
『わっ、耳元で怒鳴らないで下さいよ。鼓膜が破れて脳みそが使い物にならなくなったらどうするんですか?』
「既に使いモンになってねぇだろうが、この阿呆っ!」
 文句を言う相手に、自来也は更なる怒声を浴びせる。
『うわっ、ひど〜い。ねぇ、ナル君、聞いた? 自来也がパパに酷いこと言うんだよぉ』
 泣きつく父親にナルトは受話器に向かって舌っ足らずの声で窘めた。
『ぱぁぱ、いぢめる、めぇ、よ』
『そうだ、ナル君! もっと言ってやって! 言ってやって!』
 我が子を煽る大人げない元弟子──今現在木ノ葉の里長である四代目火影に自来也は痛む頭を押さえる。
「……お前なぁ、ちっとは火影としての自覚ってぇモンがねぇのか?」
『嫌だな、先生。ちゃんとありますよ。ねー、ナル君?』
(それが自覚あるヤツの台詞かってぇの?)
 見えない場所で脱力している師匠の姿など、今や子煩悩となり果てた弟子に想像することなど出来るはずもない。
『あ、ナル君! それ引っ張っちゃダメだよ! それ引っ張ると電話きれ……』

 ツーツーツー……

「…………切れたか」
 慌ただしい声と共に切れた電話に自来也はげんなりとした表情で受話器を元に戻すと、原稿を書くべく机へと向かう。
「木ノ葉の里の未来は大丈夫かのぅ……」
 ──そんな呟きを漏らしながら、脳内では先程のナルトの可愛らしい声をエコーさせていた。










途中まで実話。ちびナルにとっては自来也もじーちゃんの一種でしょうね(苦笑)

サクヤ@管理人
2005.01.11UP