【きらきら】



「きらきらー」
「ん?」
 肩車をしている息子から上がった声に、四代目は目線を上げて問いかける。
「とーちゃのかみのけ、きらきらしてるってばよ!」
 興奮して自分の髪の毛を掻き回す息子に四代目は苦笑を浮かべた。丁度雲間から日が射した所で、髪の毛に光が反射してそう見えたのだろう。そんな簡単な答えを知っているけれど、「きらきら」という子供の声は可愛くて、何だかくすぐったい気持ちを覚える。
「ナル君の髪もきらきらだよ」
「ほんと?」
「ん。だって、パパと同じ色だからね」
 笑って教えると、ナルトは感嘆ともつかない声を上げて、自分の髪を触りだした。
「きらきらしてるのわかんないってばよ」
 今の四代目の位置からは見えないが、不満そうな声はその可愛らしい唇を尖らせて呟かれたのだろうことが容易に想像できる。
「パパも自分の髪の毛がきらきらしてるのは見えないよ。だから、ナル君が見えなくても仕方ないね」
 そう言い聞かせると、ナルトからは不思議そうな声が上がった。
「そーなの?」
「そうだよ」
 他愛のない問答に四代目の口元には笑みが浮かぶ。大人にとっては当たり前のことでも、子供にとっては解らないことはいっぱいあり、そして、それをひとつひとつナルトに教えていくことが四代目には楽しくて仕方なかった。
 そんなことを思いながら、四代目はふと思いついたことを口にする。
「でも、だから余計に綺麗に見えるのかもね」
「?」
 意味が解らずにナルトが首を傾げる気配が伝わってくる。
「大好きなナル君がきらきらしてると、パパは幸せな気分になるから」
 同じ髪で、自分も多分同じようになっていると解っていても、それでも大好きな存在とは比べ物にならないだろう。
(きらきら輝いて、可愛い…なんて思っちゃうのは我ながら親馬鹿だよね)
 それでも本当のことなのだから仕方ない。
「ナル君もパパがきらきらしてるって嬉しがってくれたでしょ?」
「うんっ。とーちゃのかみ、すっごくきれーでわくわくするってばよ」
 問い返せば、ナルトは元気に頷く。肩が揺れてバランスを崩すのではないかと思ったが、ナルトはそれさえも楽しそうに笑って四代目の頭にしがみついた。
「自分では見えないけど、それで良いんだと思うよ」
「なんでだってば?」
 更に問いかけを重ねるナルトに、四代目は彼の息子に伝わりやすいよう、言葉を探しながら答える。
「んー、きらきら輝いてる自分も良いけど、それよりも好きな人がきらきらしてる方が嬉しいから…かな」
「とーちゃもナルがきらきらしてるとうれしってば?」
「うん。嬉しいよ」
 頭上から覗き込んでくるナルトに四代目が顔を上げて答えると、ナルトは「そっか」と頷いた。
 そして、ナルトは四代目の髪を軽く引っ張ると、
「とーちゃ、おんり!」
 そう言って、彼の肩から降ろしてほしいと催促する。
「え?」
 突然降りると言われ、不思議に思いながら四代目がナルトを降ろすと、
「これでとーちゃもナルがきらきらしてるのみえるってば」
 名案だと言わんばかりに胸を張ったナルトが笑って告げる。
「ナル君…」
 思わず愛しくなって、四代目は我が子をギュッと抱き締めた。
「ナルも、とーちゃのきらきらしてるのみえるってばよ」
 目の前にある金髪を一掴みし、ナルトは大きな蒼い瞳を向けて笑った。
「そうだね。流石、ナル君だ」
 父親に頭を撫でながら褒められて、ナルトは嬉しさに満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、今日は手を繋いで歩こうか?」
「うんっ」
 指先に絡んだ柔らかな暖かさに四代目は困ったように笑う。
 これだけでも嬉しくて嬉しくて可愛くて、本当にどうしようもなく愛おしいと思ってしまう。
 この小さな存在はお日様の光なんてなくても、いつだってきらきらして見えるのだ。
「パパにとってはナル君がお日様かもね」
 何よりも、自分にとって一番明るい光。思うだけで胸が温かくなる存在──それは太陽と同じように思える。
「とーちゃもおひさまみたいだってばよ」
 にっこりと笑って返すナルトに、四代目も同じように笑みを返す。それが深く考えていない答えだったとしても、四代目には嬉しい言葉だった。
(本当にそうであれば嬉しいな)
 同じ気持ちだったら、どれだけ嬉しいだろう。
 お互いがお互いのきらきらでありますように。
(この小さな掌の主をいつまでも照らし続けることの出来る太陽でありますように) 
 小さな太陽の手を握り締めながら、四代目はそっと願ったのだった。








誰にとって何がきらめいているかは色々ですよね。そんなお話。
『20のお題詰め合わせ』より