【みずたまり】
バッチャン! 雨上がりのぬかるみに、金色の小さな子供は嬉しそうに飛び込んで水しぶきを上げた。 泥の混じったその水滴は自分たちを跳ねかせた相手に当然のように襲いかかるが、それでもその小さな存在は嬉しそうにビシャビシャと音を立てて踏みしめ、気にすることなどない。 「ナル君、汚れるよ」 「う」 呼ばれてナルトは背の高い父親の顔を見上げた。 「あ〜あ…」 額を押さえながら、四代目はその惨状に目を向ける。時既に遅く、ナルトのだぶだぶのズボンは泥まみれになっていた。 しかも、まだオムツの取れていないナルトのお尻はしゃがみ込めばすぐに地についてしまうぐらいタプタプとしていて、水たまりの中でしゃがみ込めば水浸しになるのは当然の結果だった。 「ナル君、お尻冷たくない?」 尋ねれば、ナルトは水たまりの上でこっくりと大きく頷く。 四代目はその様子に苦笑すると、 「じゃあ、ま、いっか」 そう言って、許可を下ろした。 「後で洗濯するの大変だなぁ」 などとぼやきながらも、その瞳はナルトが可愛くて仕方ないという彩で満ちあふれている。 「あーりしゃーん」 水たまりで溺れていた蟻を見つけたナルトは、小さな指先で掬い上げるとそれを父親に向かって差し出した。 「あいっ」 にっこり笑って差し出されたそれを、四代目も同じように笑みを浮かべて受け取る。 「ありがと、ナル君」 そうして、四代目はその蟻を水たまりから少し離れた場所に下ろした。 「もう落ちちゃダメだよ」 一応注意も付け加えて。 「とーちゃ」 「はーい」 ナルトに呼ばれて戻った四代目の前に、今度はダンゴムシが差し出された。 「あ…ありがと、ナル君」 やはり律儀に受け取った四代目は、先程と同様に水たまりから離れた場所にそのダンゴムシを下ろしてやる。 「とーちゃ」 「はいはーい」 今度は何だ? と思いながら近寄れば、うぞうぞと蠢くミミズをナルトは掴んでいた。 「……ナル君、もうやめようね」 ナルトの手からミミズを離させると、四代目は泥まみれになったナルトをそのまま抱き上げた。 「あ〜」 手から落ちたミミズを心配しているのか、ナルトがミミズの行方を追って声を上げる。 「大丈夫だよ、ナル君。ミミズさんだったら、きっと水の中でも生きていけるから」 そんな適当な言葉を返して、四代目はナルトを水たまりから遠ざけた。 「あ〜あ、パパも泥だらけになっちゃったね」 もういいや、という気になりながら、四代目はナルトをギュッと抱き締める。 「とーちゃ、おちりちゅめたい」 水たまりから離れた途端に濡れたお尻が気になりだしたらしく、ナルトがそう訴えかけると、四代目は「ほらね」と言って笑った。 「おうちに帰ったら、パパと一緒にお風呂に入ろ。そしたら、すぐにあったかくなるよ」 「んっ」 頷くナルトが可愛くて、四代目はその柔らかな額に自身の額を擦り付ける。すると、ナルトも負けずにグリグリと額を押しつけてきた。 目を開けて伺うと、近い距離で大きく澄んだ青い目が嬉しげに細められ、泥の付いた顔は満面の笑みを浮かべている。 「それじゃ飛ばすよ!」 ナルトを大切にしっかりと抱き締めると、四代目は我が家へ向かって一直線に飛んでいった。 二人で仲良くお風呂に入って温まった後、脱ぎ散らからされた汚れた服を見て、帰ってきたカカシが二人に雷を落としたのはまた別の話。 四代目が優秀だけど、実生活では全然ダメな人だったらすっごい好みです(笑)。そして、そんなダメな四代目とナルトの面倒を見る家政婦カカシが脳内に住み着いています。
『20のお題詰め合わせ』より |