【手紙】



「ただいま、ナルト」
「とーちゃん、おかえりってばよ!」
 仕事からようやく帰り着いた我が家で、四代目は満面の笑みを浮かべて自分を迎えてくれる息子を幸せ一杯に抱き締めると、そのままその腕に抱き上げた。
「とーちゃん、きょうのごはんスゴイんだってばよ!」
 腕の中で楽しそうに告げるナルトに、四代目の頬も緩む。
「ナル君がスゴイって言うんだから、かなりスゴイんだろうね。どんなのかなぁ?」
 そんなことを言い合いながら用意された食事を採るべく向かった食卓の上に普段ないはずの物が目にし、四代目は思わず声を上げる。
「あれ? ケーキ?」
 その疑問に、台所から現れたうずまき家の家政婦となりかけているカカシから答えが返ってきた。
「ナルトが食べたいって言うから、今日は特別に買ってきたんです」
「へぇ〜、カカシ君が許すなんて珍しいね」
 身体に良くないという理由で、カカシは特別な日以外にケーキなど買ったりはしない。ナルトに甘いカカシではあるが、その辺については厳しいことを知っているだけに、四代目は意外さに驚きの声を隠せなかった。
「これはとーちゃんのだってば」
 ナルトがテーブルの上のケーキを指して教える。てっきりナルトの物だと思っていたこの目の前のケーキが自分の物だと教えられて、四代目は再び驚きの声を上げた。
「オレの? ナル君たちのは?」
「俺とナルトは先に戴きましたから、四代目の分だけ残ってるんです」
 素っ気なく戻ってきた言葉に四代目の肩がガクリと下がる。
「あ…そうなの…」
 一人寂しく食べるケーキの味気なさを想像すると、声は少しばかり暗くなった。
(どうせだったらナル君と一緒に食べたかったなぁ……もう少し仕事を早く切り上げられたら一緒に食べられたのに……)
 考えても詮無いことを思いながら重い溜息を吐き出すと、ナルトが妙に興奮した面もちで自分を見つめていることに気付く。
「ナル君?」
「とーちゃん、はやくたべてってば!」
「え…あ、うん」
 急かすナルトに何があるのかと首を傾げながら、四代目はケーキを言われるがままに食べることにした。
 普通に美味しいケーキに、特に変わったところはないように思える。ナルトの意図が解らず心の中で首を傾げていると、
(あれ?)
 食べ終わった後、ケーキの底に何か敷かれていることに四代目は気付いた。何だろうと思いながら、ケーキが乗っていた紙の、そのまた下にある紙を取り出す。
 四つに折られたその紙を開くと、そこに紙面を埋め尽くすたどたどしい文字が現れた。
『おとうさん いつも おしごと ごくろうさま ありがとうだってばよ』
(え…?)
 四代目は信じられない思いで、手の中の紙を見つめる。
「これ…ナルトが書いたの?」
 あまりの驚きに掠れる声で問いかければ、ナルトは自慢げに大きく頷いた。
「よーちえんでかいたんだってば。せんせーが『だいすきなひとにてがみをかいてね』っていったから、とーちゃんにてがみかいたってばよ!」
 多分、ナルトが書いた最初の手紙。しかも、大好きな人に宛てた手紙だ。
(習ったばかりの文字を一所懸命に書いてくれたんだ…)
 そう思うと目頭が熱くなって、せっかくの文字が滲んでぼやけた。
「あ、ありがとね」
 必死に隠そうとするけれど、あまりの嬉しさにそれは今にも零れ落ちそうになる。
「へへへ」
 父親からの礼に満足そうに笑いながら、ナルトは父親の胸に飛び込むと、
「とーちゃん、うれしかったってば?」
 聞かなくても解るような父親の様子に、それでも直に聞きたくて尋ねた。
「うんっ、うんっ! 嬉しくて死にそうっ!!」
 仕事の疲れも一気に吹き飛んでしまったぐらいに、ナルトからの思わぬプレゼントは四代目を幸せの絶頂へと導いた。
 いつものことながらナルトの行動一つ一つにとろけてしまっている四代目の表情に苦笑して、カカシはケーキが用意されていた種明かしをする。
「だから、今日は特別な日だったんですよ。ナルトが初めて字を書いたんですからね」
 抱きつくナルトの髪に頬ずりしながら、四代目は弟子の顔を見上げると、ナルトの可愛い企みの共犯者に尋ねた。
「ケーキの底に隠したのはカカシ君の入れ知恵?」
「演出は効果的にした方が良いでしょ? まぁ、実際はナルトがアナタを驚かせたいって言うから、そこに隠しておいたんですけどね。……嬉しいでしょ?」
「嬉しすぎっ!」
 ギュウッと腕の中のナルトを抱き締めて、四代目は溢れ出して仕方ない幸せを体で表す。
「とーちゃん、くるしってば!」
 胸から顔を上げて抗議するナルトのほっぺたに、それでも懲りずにキスを降らせると、
「ああもうっ、ナル君、明日も明後日もそのあともずーっとずっーっとパパ頑張るからねっ!!」
 小さな我が子を抱き締めながら、四代目は心新たに誓った。

 いつだって、この子が誇れる父親でいよう、と。
 いつだって、この子に誇れる父親でいよう、と。








これもまたラジオネタから。凄い和むんですよ、朝から。大好き、NACK5。
『20のお題詰め合わせ』より