【あったかい】



「くしゅんっ」
 薄着で駆け回っていたナルトが、小さな身体を大きく震わせてクシャミをした。
「ああもう、ナル君、そんな薄着してるからだよ」
「外に出るんだったら上着を着ないとダメだよ。風邪ひいちゃうからね」と注意したのに「いや」という息子の強固な拒否にあって、仕方ないなぁと思いつつ見守っていた四代目は、ナルトの小さな身体に自分が着ていた羽織を被せるとそのまま抱き上げた。
「…ったかーい」
 父親の温もりが残る羽織からスポッと頭を出したナルトは、父親の顔を見つけるとにっこり微笑む。
「寒いんだからそんな格好してたらダメだって言ったでしょ?」
 そんなお小言もナルトの耳には入っていないのか、気持ちよさそうに父親の胸元にクリクリと頭を擦り寄せる。
 柔らかく温かな体温が伝わってくると、四代目は小さく困ったような笑みを口元に刻んだ。怒っているように見せたいのに、こんな仕草をされるとどうしても口は綻んでしまうのだ。
「もう寒くない?」
 胸の中でフワフワの金髪がコクンと頷き、大きな青い瞳は父親の顔を映し出すとふにゃりと笑みの形に歪む。
「だぁじょぶってばよ」
 だが、そう言った途端にナルトは「くしゅん」とまた小さなクシャミを一つ零した。四代目は慌てて自身が着ているベストもナルトに差し出そうとするが、その重さに気付き少しだけ躊躇う。
「ナル君、ちょっとだけ待っててくれる?」
 そう言い置いてナルトを下ろした四代目は、脱いだベストから色々な忍具を取り出し始めた。
 少しの間その様子を見守っていたナルトだったが、薄着になった父親の姿に段々と泣きそうな表情を浮かべ始める。
「とーちゃ!」
 我慢できずにそう叫ぶと、ナルトは目の前にある広い背中に抱きついた。
「え? あれ? ナル君?」
 負ぶさるような形でしがみつくナルトに、四代目は驚いて振り向く。
「とーちゃ、しゃむいってばよっ」
 自分に上着を掛け、あげくにベストまで脱ぎだした父親の姿がナルトの目には寒そうに映ったのだろう。少しでも温めようとその身体を擦り寄せて、父親の肩に必死に羽織りを着せ掛けようとする。
「ナル君…」
 ナルトの行動にうっかり嬉し涙を零しそうになっていると、ふわりと目の前の木の葉が舞い上がった。
「……こんな所に忍具散らかして何やってるんですか?」
 その場に現れたのは四代目の弟子であるカカシで、四代目は彼に困ったような笑みを見せる。
「いや、ナル君が寒そうだったからベストを着せ掛けようかなぁと思ったんだけど、忍具が入ってて重かったんだよね」
 あっけらかんとした様子で理由を告げる四代目に、カカシの目がいつも以上に細まった。
「アンタねぇ…本当に忍ですか?」
(しかも、火影の地位についてると思ったのは俺の気のせいですか!?)
 更にツッコみたい気持ちをカカシは心の中で押しとどめる。
 だが、そんな呆れた声で窘められても、四代目は全然堪えていない笑みで当然のように返してきた。
「だって親だもん。可愛いナル君が風邪引いたりしたら嫌じゃない」
 背中にしがみつくナルトを負ぶったまま立ち上がると、四代目は散らかしっぱなしの足下を指し示す。
「カカシ君、悪いんだけど、これ片づけてくれる?」
 輝くような笑みで頼まれたそれはカカシにとっては命令でしかなく、カカシは溜息をつくと、手早く散らかった忍具を片づけ、元通りになったベストを四代目に差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
 ベストを受け取った四代目がカカシに礼を言うと、背中のナルトも父親に倣って礼を口にする。
「かぁし、ありあとっ」
 小さな頭が声と共に前に振られ、「どういたしまして」とカカシが苦笑を浮かべながら返した時、ナルトの頭が側にあった四代目の顎の端にガツンと一発入ってしまった。
「うがっ!」
「あっ!」
 衝撃に四代目はみっともない声を上げ、その瞬間を目の当たりにしてしまったカカシも思わず声を上げる。
「ナルトッ、大丈夫か?」
 カカシが咄嗟に心配したのはナルトの方だ。痛がる師を無視して、背中のナルトの様子を慌てて伺う。
 カカシが覗き込むと、ナルトは痛みに泣くことはなかったが何が起こったのか解らなかったらしく、不思議そうに小首を傾げていた。
「痛いよ、ナル君〜」
 四代目が肩越しに息子を涙目で見上げれば、ナルトはキョトンとした表情で父親を見つめ返す。
「とーちゃ、たいってば?」
 四代目の言葉を受けて、ナルトは赤くなっている箇所に手を伸ばすと、その小さな手のひらで撫でた。
「たーいのたーいの、とーでけっ」
 犯人であるナルトはそのことも知らずに、痛くなくなるおまじないを父親に向かってしてみせる。
 その様子を呆然とした表情で見ていた四代目だったが、すぐに相好を崩し、「敵わないなぁ」と言って笑った。
「ありがと、ナル君。もう、痛くないよ」
 気のせいか痛みも薄れた気がして、四代目は背中にある小さな頭に軽く自身の頭を擦りつけながら嬉しそうな声でナルトに礼を告げる。
 ナルトはそれを聞いてくすぐったそうに笑うと、父親の首にしがみついた。
「とーちゃっ」
「ん! ナル君っ!」
 ひとしきりスキンシップをする親子の様子をポリポリと頭を掻きながら見守っていたカカシだが、いいかげん埒が明かないと思い、用件を切り出した。
「……で、四代目。俺が何でここに来たか、勿論気づいてらっしゃいますよね?」
「え? 何で?」
 カカシがそこにいたことさえ忘れていたような勢いで問いかける四代目に、カカシのこめかみがピキリと引きつる。
「アンタの仕事が滞ってるからに決まってるからでしょーがっ!!」
「えっ? あ、そうなの? ごめん、カカシ」
 悪気があるのかないのか解らないような謝り方をする現火影の首根っこをひっつかむと、カカシは有無を言わせずにナルトごと執務室へと連行した。

 ──その後、ナルトを取り上げられた四代目が必死に仕事をこなしたのは言うまでもない。








某Mさんの日記から妄想してしまいました(最後はかなりズレてしまいましたが・苦笑)。ラブラブ親子大好きです。
四代目の親馬鹿っぷりが、ただの馬鹿になってきているのではないかと思わずにはいられません。すみません…こんな四代目書いてますが大好きです。
タイトルは『20のお題詰め合わせ』より