【いろとりどり】
小さな掌いっぱいに色とりどりのビー玉を乗せて、ナルトは小走りに父親の元へ駆け寄った。 「とーちゃ」 「ん?」 持ち帰った仕事を片づけていた四代目は、舌足らずな可愛い息子の声に顔を上げる。座り机の上には沢山の書類が今か今かと待ちかまえているように積み重ねられていた。 「こえ、きれー」 頬をうっすらと染めたナルトが、嬉しそうな表情で父親の目の前に掌を差し出す。小さな掌から今にも零れ落ちそうなビー玉の山を目にした四代目は、その秀麗な顔を綻ばせるとナルトの頭を撫でた。 「ん、綺麗だね。どうしたの?」 優しい声がビー玉の出所を尋ねる。 四代目はナルトにビー玉を買ってあげたことはなかった。ならば、誰かからの貰い物でしかなく、ナルトの様子と普段を考えるに誰に貰ったか察しがつく気がするが、とりあえずはナルトの口から聞いてみることにした。 「ばーちゃがくえたってばよ」 見かけだけだったら父親とそう変わりのない年頃に見える人物を、ナルトは『ばーちゃ』と呼ぶ。実際は四代目の師である自来也と同じ三忍と並び称される最強の女性で、勿論、歳も自来也と並んでいた。 「綱手様がくれたんだ?」 あの人もこんなものを持ってたのか…などと四代目が感慨深い物を感じていたが、 「うんっ。ばーちゃ、おーあたい〜いってたってばよ」 ナルトの補足に、180度考えを改める。 「ああ…パチンコの景品だったんだね」 綱手にしては珍しく玉が出たらしい。ナルトへのお土産を持って帰る余裕がある程に。 「きらきらしてきれーだってばよ」 ナルトの掌から降ろされたそれらはコロコロと机上を転がっていく。 「こえはーとーちゃとおんなじっ!」 小さな指が摘み上げたのは黄色のビー玉。 「ナル君ともおんなじだね」 「こえもっ」 次に摘み上げたのは青い玉。 「それもナル君とおんなじだよ」 クスクスと小さな笑いを漏らし、四代目はナルトから手渡されるビー玉を大きな掌に転がす。 色とりどりのビー玉は見ているだけでも目を楽しませるし、嬉しそうなナルトの表情は四代目の疲れた心を和ませた。 「これはナル君の好きなサクラちゃんと同じ色だね」 ピンクと緑色のビー玉を指さして悪戯っぽい瞳がそう指摘すると、その途端にナルトの頬はピンク色を濃くし、その表情は照れたようなものになる。 それはそれで何だか悔しい気がしないでもないが、微笑ましくもあって、四代目は笑みを零した。 しかし、それはすぐにナルトの次の言葉で引きつったものへと変化する。 「あ、しゃしゅけのないってばよ?」 『サクラちゃん』と共にナルトの口からよく上がる名前が、ここでもやはり持ち上がった。 「サスケ君の色はここにはないかなぁ?」 黒いビー玉など、そうそう有るはずもない。 四代目はにっこりと笑いながら、可愛い息子にそのことを教える。うちはの次男坊には(一方的に)何度か煮え湯を飲まされているだけに、内心溜飲が下がった気がしていた。 しかし、四代目の心の内とナルトの反応は違うものだった。 「しゃしゅけのないってば?」 そう呟いたナルトの目にはうっすらと涙が浮かび上がっている。 「な、ナル君?」 慌てて息子を宥めようとする四代目だが、問題となっているビー玉に黒い色など見たこともなく、どうやって慰めたものか考えあぐねてしまう。 (うちはの人達ってみんな黒いんだよねぇ…何か他の色に例えられなかったっけ?) 「あ、そうだ!」 思いついた色に四代目は一つのビー玉を摘み上げた。 「とーちゃ?」 自分の様子に首を傾げるナルトに笑みを向けると、 「ナル君、この色がサスケ君の色だよ」 四代目はそう言って、摘み上げたビー玉をナルトの目の前に翳す。 ビー玉は真っ赤な色をしていた。 「こえ…しゃしゅけとちがぁう」 ブンブンと首を振るナルトに苦笑しながら、四代目はその理由を説明する。 「今のサスケ君のおめめは真っ黒いけど、いつかこんな色になるんだよ〜…………多分」 最後は方はナルトの耳に届かない声で付け加えた。うちはの血継限界である写輪眼を開眼すればこんな色になるのは間違いないが、開眼するかどうかは確実ではないからだ。 「……ほんと?」 少しだけ疑問を含ませながら、ナルトは父親の言葉が本当であるかもう一度確認するように聞き返す。 「ん。だから、サスケ君もちゃんとお友達の中にいるよ」 ナルトの心配に気づいていた四代目はナルトの言葉に頷くと、殊更安心させるような口調で応えた。 「しゃしゅけもいっしょー」 そうして安心したナルトはふにゃっと笑うと、赤いビー玉を父親の手から受け取り、ギュッと掌に握り締めた。 その満足そうなナルトの様子を、四代目は複雑な胸中で見つめる。 (ナル君…パパは心配なんだけど……ただ仲間はずれがイヤだってことだよね? そうだよね???) 心の中で口に出来ない問いかけを呟きながら(聞いて、怖い答えが返ってきたら嫌だからだ)、色とりどりのビー玉にはしゃぐ息子がこのままでいますように──と、祈っていた。 相変わらずサスナル風味(乾笑)。パパは諦めません。でも、成長させてあげましょうよ(苦笑)。
『20のお題詰め合わせ』より |