【ちゅう】



「今日はこんなことがあったんですよ」
 そう切り出した息子の担当クラスの保母に、四代目は目の端で無邪気に遊ぶ我が子を確認しながら、今日の出来事を報告して貰うべく耳を傾けた。
「サスケ君がサクラちゃんと遊んでいたら、ナルト君が『しゃしゅけ、とっちゃやー』って言ってサスケ君の腕を引っ張ったんです」
 なるべくその場のことを詳細に伝えようとしているらしく、保母はナルトのたどたどしい口調を真似しながら説明する。
「へぇ〜」
 にこにこと笑って相づちを打ちながら、四代目はナルトとサスケの仲がそんなに良い方ではなかったことを思い出す。いつの間にそんなに仲良くなったのだろうかと心の中で首を傾げていると、更に驚くべき言葉が保母の口から飛び出した。
「そうしたら、サスケ君ってば、ナルト君に向き直ったかと思ったらチュッて」
「………………チュッ?」
 その擬音から連想される行為と言えばただ一つで、信じたくない思いに呆然とした表情で四代目はその音を繰り返す。
「ええ、キスしちゃったんですよ〜」
 保母は微笑ましげに言うけれど、そのとんでもない内容に、四代目の顔からはザザッと血の気が引いていく。
「え、え〜と…、ほ…ほっぺたにですか?」
 それでも何とか逃げ場を見つけようとする四代目に、彼女は遠慮なくとどめを刺してくれた。
「いいえ、口にです」
(く…ち………………)
 ショックで四代目の頭は暫し真っ白になる。
「四代目?」
 四代目の様子に心配げな保母の声が掛けられると、彼はハッとし、
「こ、子供だから仕方ないですよね〜。いや、可愛いじゃないですか」
 などと、社交辞令とも言うべき言葉を必死に紡いだ。
(う…うちはのガキめっ……!)
 実際は引きつった笑みを面に浮かべつつ、心の中で拳を震わせていた。
「とーちゃっ!」
「ナル君」
 笑いながら駆け寄ってくるナルトに、四代目は慌てていつもの優しい表情に戻ると、小さな身体をその腕に抱き上げた。
「ナル君、今日、サスケ君にキスされたんだって?」
 尋ねる声に何気ない険が籠もってしまうのは仕方のないことだろう。けれど、そんな父親の心情に気付くことなく、ナルトは聞かれた言葉が解らずに繰り返し尋ねた。
「きす?」
「うん。ちゅうのこと」
 言い方を変えると、ナルトはようやく理解したのか大きく頷いた。
「ちゅうしたー」
 にっこりと笑うナルトに肯定されて、四代目は心の中で滝の涙を流す。
(ち…ちっとも嫌がってないんだね、ナル君……)
 そのことにまた妙な敗北感を抱き、四代目の心は地の底へと沈んでいった。
「とーちゃもー」
「え?」
 四代目が顔を上げると、向かい合わせに抱いていたナルトが身体を伸ばし、その小さな手に頬を挟まれた直後、ぷちゅっという可愛い音をさせながら柔らかい唇が押しつけられた。
「ちゅー」
 顔を離したナルトは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに告げる。
 四代目といえば、不意打ちのキスに思わず顔を赤くし、ナルトを抱いていて隠せない顔を、その小さな背中に埋めることで誤魔化した。
「とーちゃ?」
「う…」
(嬉しいよ〜〜〜〜〜っっ!!)
 声にならない歓喜の叫びを上げ、四代目はナルトの身体をギュウッと抱き締める。
 しばらくその幸せの余韻に浸りながら、心の中ではどうやってうちはのガキをこらしめてやろうかと考える、やはり大人げない四代目火影がいたのだった。










うちの甥がしでかした実話から。
サスナル風味なのはご勘弁下さい…(^^;)

サクヤ@管理人
2005.01.04UP