【ちゅう 2】 『ナルト君が熱を出してしまったので迎えに来てもらえますか?』 そんな内容の電話が火影執務室に入った直後、四代目火影は皆が留める間もなく姿を消した。 「ナル君、大丈夫っ!?」 大事な息子に何かあったらすぐ駆けつけられるようにと、ナルトのバッグに瞬身の術を施しておいた四代目は、その術の名の通り、一瞬にしてナルトのいる保育所まで駆けつけた。勢い込んで現れた人物が自分の父親だと認めたナルトは、少し赤くなっている顔で微笑む。 「とーちゃ」 トトト…と駆け寄ってきたナルトを、四代目は腕を差し伸べて抱き上げた。 そしてそのままコツンと額を合わせる。 「ナル君、熱があるよ! 大丈夫なの!?」 目の前で心配そうに眉を寄せる父親にナルトはにっこりと笑って見せると、コックリと頷いた。 「だぁじょぶ」 「熱はあるけど元気なんですよね」 四代目の出現に驚くこともなく、彼らの様子を見守っていたナルトの担任は、苦笑しながらそう付け足す。 「あ、先生」 「こんにちは、火影様」 彼女が挨拶をすると、何も言わずに現れたことを思いだした四代目は慌てて頭を下げた。 「いつもナルトがお世話になってます。今日はご迷惑おかけしてすみません!」 「いえ、こちらこそお忙しいところお呼び立てしてしまって申し訳ありません」 少し年輩のナルトの担任は、優しげな笑みを浮かべて四代目に応対する。 「ナルト君、さっき熱を計ったら38℃あったので、おうちに連れて帰って頂けますか?」 元気でも37.5℃以上の熱が出たらうちに帰すのが決まりなのだ。申し訳なさそうに告げる彼女に四代目は頷く。 「解りました。じゃあナル君、荷物持って帰ろうね」 「やっ」 父親の言葉にナルトは首を振って嫌がった。本人してみれば、こんなに元気でみんなともっと遊んでいたいのに、何で一人早く帰らなければならないのかが解らなかったからだ。 そんなナルトに四代目はもう一度額を押しつけると、至近距離でジッと目を合わせた。 「これ以上熱が上がったら今日だけじゃなくて明日も明後日もみんなと遊べなくなっちゃうよ? そうしたらナル君もイヤでしょ?」 ゆっくりと諭され、ナルトの顔は段々と下向いていく。 「……うん」 子供ながらに仕方ないことに納得したらしい。ナルトは今にも泣きそうな声で頷くと、四代目の腕を掴んでいた小さな手にギュッと力を入れる。そんなナルトが可愛くて、四代目は口元に小さく笑みを浮かべると愛おしげな視線で我が子を見つめた。 「元気になったら、また遊んでもらおうね。さ、荷物持っておいで」 四代目はナルトを床に下ろすと、その柔らかい金髪を撫で、荷物のある方を指さした。 荷物は帰る用意をしていた保母により纏めてあって、彼女が差し出したそれをナルトは小さな腕で受け取る。ナルトの後を追いかけてきた四代目はその荷物を受け取り、ナルトに上着を着させると、その手を引いて扉に向かった。 その扉の前には一人の子供が立ちはだかっていた。 真っ黒な髪と真っ黒な瞳、そして整った顔立ち。 (あれは確かうちはの……) 子供ながらに要注意人物として四代目の心に刻まれている存在に、秀麗な眉が顰められる。 「しゃしゅけ」 「ナル君?」 サスケに気付いたナルトは繋いでいた四代目の手を振り解くと、テテテとサスケに近寄っていった。そして、その肩に手を置いて軽く背伸びをすると、 「ちゅー」 そう言って、チュッと軽い音をさせたのである。 「えへへ」と笑いながらサスケから身を離すナルト。 それを見ていた四代目はムンクの叫び状態で、声にならない叫びを放っていた。 「…………ななななななななナル君っ!? 何やってるのーーーっ!?」 慌てて我が子を引き寄せれば、ナルトは可愛く小首を傾げながら、やり遂げた笑みを零している。 「ちゅー。しないとかえっちゃダメだってばよ」 「せせせ先生っ!?」 ワケの解らない法則を言うナルトに、四代目は縋るような目を向けてナルトの担任に問い質した。 「最近流行ってるんですよねー」 二人の様子を微笑ましげに見守りながら、彼女は簡単な説明を返す。 「本当は風邪とか伝染っちゃうと大変だから困ってるんですけどね」 苦笑しながらもそのことを容認しているらしいことが伺え、四代目は愕然とした表情で彼女を見つめた。 「でも、サスケ君はナルト君としかしないし、ナルト君が他の子にしようとするとサスケ君が止めるんですよ。よっぽどナルト君のこと好きなんですね」 (いや、そんなこと言われても全然嬉しくないですから! と言うか、安心して保育所に預けてられないじゃないですかっ!!) 心の中で叫ぶが、彼女には伝わることはなかったらしい。 「子供って可愛いですよね〜」などと、ほのぼのとした表情で同意を求められても、四代目は素直に頷くことは出来なかった。 「そんなこと言ってないで止めて下さいよっ! 悪性のインフルエンザでも伝染ったらどうするんですかっ!!」 問題はそんなことではないのだが、とりあえずの言い訳として十分な理由だと思われることを四代目は必死の形相で訴えかける。 「でもねぇ…」 そう言って、彼女が辺りを見回すのを四代目も共に目を向けた。 そして目に映ったのはそこかしこでキスをしている園児の姿。男の子も女の子も関係なくちゅーの嵐。 「……これを止めるのは無理ですよね?」 にっこりと笑顔を向けられて、四代目は力無く肩を落とした。 この分では自分の息子だけ守ってくれと言っても聞いてはもらえないだろう。 何よりもこれは子供のコミュニケーションなのだ。 そう自身に言い聞かせながら、それでも落ち込んだまま顔を上げた四代目の目に入ってきたのは、サスケからナルトにキスをしているという光景だった。 (う…うちはのガキがぁ…っ!!) ギリッと唇を噛みしめ、四代目は素早くサスケからナルトを奪う。 「ナル君、熱があるんだから帰らないとね」 押さえきれない怒りを滲ませつつ、それでも大人のプライドとして子供と張り合うような愚行は起こしてはいけないと四代目は必死に冷静を装ってナルトに告げた。 「じゃあね、サスケ君。ほら、ナル君もサスケ君にバイバイして」 完璧なまでの笑みを浮かべ、早く大事な息子を危険人物から遠ざけようと四代目はナルトを急かす。 「しゃしゅけ、またね」 「またな」 ナルトが手を振ると、サスケもまた素っ気ないながら頷いて応える。 その頬がうっすらと赤く染まっていたことを四代目が見逃すことはなかった。 「ナル君…ちゅうはやめなさいね」 道すがら、ナルトを抱き上げた四代目はこれ以上心臓に悪いことはやめてもらおうと、息子に言い聞かせる。 「ちゅう、めっ?」 小さな手を父親の肩に置いたナルトが覗き込むようにして聞き返すと、四代目はちょっとだけ怖い顔をして頷いた。 「ん! めっ、だよ?」 「…………」 ナルトは暫く考え込んだ後、四代目に顔を寄せるとチュッと口づけた。 「とーちゃにもめっ?」 泣きそうな顔で尋ねてくるナルトは可愛すぎて、四代目の腰は危うく砕け落ちそうになる。だが、ナルトを落としてはいけないと何とか気力で踏みとどまった。 「ぱ…パパにだけだったら良いかなー……」 頬を赤く染めつつ四代目が自分本位な答えを返すと、その目の前でナルトが満面の笑みを浮かべる。 「とーちゃ、ちゅー」 「うわっ、危ないよナル君っ」 早速キスしてくるナルトに、四代目は注意しながらも緩んだ顔を隠せない。幸せの独り占めに身も心も浮かれていた。 そうして後日、四代目は子供の記憶力と約束など儚いものだということをしみじみと痛感することになるのだった。 うちの甥がしでかした実話からちゅう話パート2。今回立ちはだかっていたのは女の子らしいです。 サスナル風味なのはご勘弁下さい…(^^;) サクヤ@管理人 2005.02.23UP
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