【ススキ野原】



 夏が終わり秋へと移り変わった空気はどこか凛としていて、祭りの後のような一抹の寂しさを胸に過ぎらせる。
 天空には夏よりも冴えた月が浮かび、辺りを照らしていた。
 銀色に降り注ぐ光は昼間とは違う明るさをもたらし、足下の心配をすることもない。
「ナル君、お散歩行こうか」
「うんっ」
 小さなナルトの手を引き、四代目はススキ野原へと足を運ぶ。
 さわさわと風にそよぐススキの音。冷たい風が頬を掠めるけれど、繋いだ手の温かさはそれを簡単に消し去ってくれる。
「ほら、ナルト」
 背の高いススキを手折った四代目は、ススキの頭の部分に当たる場所をナルトに向ける。
「ふわふわー」
 ナルトはススキの穂をその小さな手で掴むと、嬉しそうな顔で父親を見上げた。
「ホント、ふわふわだね」
 傍らで優しい眼差しを向けた四代目は、しゃがんでナルトと同じ視線になると、ススキに負けない金色の髪をくしゃりと撫でた。
 柔らかな髪の毛。掌から伝わる体温に自然と頬は緩む。
「ナル君、見ててごらん。これをこうするとー」
 四代目はもう一本手にしていたススキの穂の部分を丸めると、どこからか取り出した糸のようなものでそれをくくった。
「はい」
 差し出された手の平に乗せられた物に、ナルトの目がまん丸く見開かれる。
 まん丸な頭と胴体に長い耳。
「うさぎしゃんっ!」
 それはススキの穂で作られた兎だった。
 四代目は喜ぶナルトにそれを手渡すと、今度は違う形の物を作り始めた。
「じゃあね、これはなーんだ?」
「?」
 見たことのない形にナルトは小首を傾げる。その様子に四代目は「そっか、ナル君はまだ見たことないっけね」と呟くと、早々に答えを教えた。
「これはね、フクロウさんだよ」
「ぅくろうさん?」
 ナルトは舌っ足らずの声で繰り返し、父親の掌に乗せられた物をまじまじと眺める。それがどんな動物かを想像して百面相を作るナルトに、四代目は小さな笑みを浮かべて簡単に説明を加えた。
「フクロウさんはね、ホウホウって夜に鳴く鳥さんだよ」
「ふぇ〜」
 ナルトは感嘆の声を上げながら父親とススキのフクロウを交互に見つめる。そして、期待の篭もった視線と声で父親に問いかけた。
「ふくろうしゃん、あえるってば?」
「うーん、どうだろね? 声ぐらいは聞けるかもしれないけど…」
 いるとしても林の中だろう。こんな止まる木もないような場所には現れそうもなくて、四代目は困ったように首を傾げる。
 しかも、実際はこんな風に可愛い生き物でもない。まだ小さいナルトには刺激が強いのではないだろうか?
 そんなことを考え、四代目は少しだけ困ったように笑いながらナルトの頭を撫でた。
「また今度見せに連れていってあげるよ。だから、今日はこれで我慢して。ね、ナル君」
 その心情が伝わったのか、暫くジッと父親を見上げていたナルトだったが、最後には納得したようにコクンと頷くと、
「ふわふわのうさぎしゃんとふくろうしゃん、かわいってばよ」
 小さなススキ細工に頬ずりしてにっこりと笑った。
 その笑みに釣られ、四代目の頬にも柔らかな笑みが刻まれる。
「じゃあ、ナル君はその子たちをちゃんと抱っこしててあげてね」
「んっ」
 父親からの言葉にナルトは大きく頷く。
「で、お父さんは…」
 四代目は立ち上がり、ナルトの脇に手を差し入れると、その小さな身体をひょいと抱き上げた。
「ん。これで準備万端」
 四代目はそう言うと、目の前にある柔らかなほっぺたに自身の頬を擦りつける。表面のひやりとした温度が伝わり、四代目は温めるようにそこへ唇を押しつけた。
「冷えちゃったね。おうちに帰ろ」
 丸い額にこつんと額をぶつけて、青い大きな瞳を覗き込みながらそう告げる。
 すると、目の前で満面の笑みが零れ、月の光の中でも太陽のような眩しさを思い出させるその表情に、四代目は思わず目を眇めた。
「ん? ナル君?」
 腕の中でもぞもぞと動きだした小さな存在に、四代目は不思議そうに首を傾げる。
「…んしょ、んしょ」
 ナルトはシャツの襟元からススキの兎と梟を入れると満足したように頷き、空いた細く柔らかい腕を四代目の首にふわりと絡めた。
「こうするとあったかいってばよ」
 そんな可愛らしいナルトの声が耳元を擽り、一気に身体の奥が温かくなる。
「そうだね、すごく暖かい」
 柔らかな身体を少しだけ力を込めて抱きしめ返しながら、四代目はナルトの言葉に頷いた。
 そうして、幸せな重みを腕に感じながら、この時間が少しでも長く続くようにと、ゆっくりと月夜の道を歩き始めた。










ススキを見ては親子を思い…(妄想)。

サクヤ@管理人
2005.09.29UP