【バレンタイン・デー 前編】 「あ、もうバレンタインシーズンだっけ」 任務帰り、途中までだったら一緒に帰っても良いとナルトに許可をくれたサクラが、商店街に飾られているのぼりを見て声を上げる。 「サクラちゃん、俺にくれるってば?」 自分を指さしながら期待を胸にナルトが尋ねれば、 「いいわよ。ただし、義理チョコだけどね♪」 にっこり笑ったサクラに容赦のない言葉を返された。 「あ、そ…」 ガクリと肩を落とすナルトを気に止める様子もなく、サクラは外から店内を覗く。 「ね、ナルト、ちょっと入っていかない?」 店を指さし、サクラは何気ない調子でナルトを誘った。 「え? お、俺もだってば?」 女の子の聖域とも言える場所に足を踏み入れる勇気は流石のナルトにも無く、サクラの誘いとはいえ腰が引けてしまう。 「いいじゃない。まだ時期的に早いから女の子少ないし、アンタと私だったらお姉さんの買い物に付き合う弟に見られるぐらいでしょ」 それはそれで傷つく発言をされたナルトは、有無を言わさず腕を引っ張るサクラによって店内へと引きずり込まれた。 「お父さんには何あげよっかなー?」 並べられているきらびやかな商品を楽しそうに見ながら、サクラが呟く。 「え? サクラちゃん、お父さんにもチョコあげるってば?」 父親にまであげるとは思わず、ナルトが不思議そうに尋ねると、サクラは呆れた様子でナルトの目を覗き込んだ。 「あったりまえでしょ! いつもありがとうって感謝の気持ちを込めてあげるのよ。アンタにあげるよりよっぽど重要なんだから!」 ナルトの胸を指先で刺しながら、サクラはその重要さを念押しをする。 「へ、へぇ〜……」 ナルトはサクラの気迫に押されながら、そんな意味もあったのかと意外そうな表情を浮かべた。そして、チョコを選びに戻ったサクラに更に尋ねかける。 「ねぇねぇ、サクラちゃん、やっぱチョコ貰うとお父さん嬉しいってば?」 「可愛い娘からのプレゼントなんだから、嬉しいに決まってるでしょ」 ナルトの質問に、チョコに目を向けたままのサクラはキッパリと答える。 「そういうもんなんだー」 感心するナルトにサクラは向き直ると、腰に手を当てて溜息を吐き出した。 「…あのねぇ、ナルトは知らないかもしれないけど、元々バレンタイン・デーってお世話になっている人にありがとうって気持ちからプレゼントを贈る日なのよ」 「え? そうなの?」 初めて知る事実に、ナルトの目が丸くなる。 てっきり、女の子が好きな男の子にチョコレートを渡す日だと、ナルトは思いこんでいたのだ。 「そうなの」 そんなナルトにサクラが畳みかけるように頷く。 「お菓子屋さんの商戦でちょっとイベントが変わっちゃったけどね」 それでも自ら踊らされていることにサクラは異議はないらしい。 「だから、お父さんにあげなかったら意味がないのよ」 「……へぇ……」 サクラの説明を聞きながら、ナルトは違うことを考え始めていた。 (父ちゃんにもやったら喜ぶかな?) 当代の火影であるナルトの父親、四代目はナルトの憧れの存在でもある。誕生日や父の日にお祝いするのは当然のこと、出来るだけナルトは父親の喜ぶ姿が見たかった。 (サクラちゃんが教えてくれた通りなら、俺が父ちゃんにチョコレートを贈ってもおかしくないよな) 贈ればきっと喜んでくれるに違いない。 (父ちゃんの喜ぶ顔見たいってばよ) 大好きな父親が満面の笑みを浮かべてくれるその図を想像しただけでナルトの頬は緩んでくる。 だが、如何せん、このイベントは女の子の為にあるようなもので、男である自分が参加するのは憚られた。 (チョコレート渡すのは良いけど、買いにくいってばよ……) こうして見るのに付き合うだけでも恥ずかしいのに、買うとなると相当の勇気が必要だろう。 「やっぱり今日買って行っちゃおうっかな?」 (!!) サクラがチョコレートを見ながら呟くのを耳にし、ナルトはピョコンと顔を上げた。 「ね、ねぇ、サクラちゃんっ!」 サクラの服を、ナルトの手がクイッと引く。 「何よ?」 物色していたのを邪魔されたサクラが不機嫌さを醸し出して振り向くと、ナルトが手を合わせて頭を下げていた。 「お願い、頼まれてくれない?」 「はぁ〜?」 ナルトが急に何を言い出したいのか解らず、サクラは眉を顰める。 「チョコレート、一個一緒に買ってほしいってばよ」 「チョコレートって…一体何に使う気よ?」 訝しげに尋ねるサクラに、ナルトは困ったような笑いを浮かべるとその耳に口を寄せて囁いた。 「……内緒だってばよ?」 バレンタイン・デー当日。ナルトはサクラに買ってもらったチョコを前に悩んでいた。 朝から渡すことも出来たが、今日は任務が休みでいつでも渡すことが出来る。やはりここは趣向を凝らした渡し方をするべきだろうと、ナルトは父親を仕事に送り出した後、ずっと考えていた。 「普通に渡してもつまんないし……そうだってばよ!」 思いついた名案にナルトはにんまりと笑うと、全身が映る鏡の前に立ち、印を組む。 「忍法お色気の術!」 ナルトのかけ声と共に吹き出した煙幕が消え去った後、そこには長い金髪の美少女が立っていた。 「今まで父ちゃんには試したこと無かったもんな。きっと驚くってばよ!」 鏡の前で少女に変化したナルトは満足そうに頷く。いつもは服を着ていない状態での変化だが、今日はチャイナ系のワンピースを身に纏っていた。身体にフィットするチャイナ服は体の線が出て、スタイルの良さが目に見えて解る。 「ボンッキュッボンッで、父ちゃんを悩殺だってばよ!」 ニシシと笑いながら鏡に向かってVサインをすると、ナルトはチョコレートを掴んで父親の仕事場へと向かっていった。 「っても、この姿じゃ執務室まで入れないの忘れてたってばよ……」 いつもであれば息子ということでフリーパスだが、その息子ということを内緒にしていくのだからすんなりと通して貰えるはずがない。向かう先は曲がりなりにも木ノ葉の里長である火影の執務室なのだから。 ガクリと項垂れながら、ナルトはどうにか外で父親と会えないものかと考える。 「ちょっとだけで良いから、父ちゃんが執務室から外に出てきてくれれば良いんだけどなぁ……」 「君、君、何か用?」 悩むナルトの頭上から聞き知った声が聞こえ来て、ナルトは勢い良く上を向いた。 「カカシ先生っ」 その人を認めてナルトは明るい顔を向ける。 「お前…ナルトか……」 普段は自分たちの上司であるカカシがそこには立っていた。 「こんな所でそんな格好して座り込んで、一体どーしたっての?」 何となく想像はついたが、とりあえずカカシはナルトに尋ねてみる。 「先生、悪いんだけど父ちゃんを外に呼びだしてってば?」 カカシはナルトの父親である四代目の弟子であり、ナルトたちとの任務が無い日はその秘書も務めている側近中の側近だ。ここでカカシと出逢えたのは幸運にナルトは嬉しさに目を輝かせると、早速父親を呼びだしてくれるよう頼み込む。 「えー? タダで頼まれるのはイヤだなぁ」 (大体、ナルトが来たってだけであの人は仕事にならないんだから) 親馬鹿の極地──カカシは尊敬する師のことをそう思っている。 限りなく有能なくせに、ただ一つの弱点の前ではとんと無能に陥るのだ。 ナルトが手にしているのは多分チョコレートだろう。しかも、呼び出してこれを渡そうとしているに違いない。 (サクラ辺りにでも入れ知恵されたのかねぇ……) 心の中で賢い弟子の一人を思い出す。普通だったら、男の子のナルトがチョコレートをあげるなんて発想を思い浮かべるわけないだろうから。 (こんなナルトにチョコレートなんて渡された日には、あの人、その場で仕事放棄しちゃうんじゃないの?) まず間違いなく、カカシの予想通りになることだろう。その手引きをするのは自分を含め、他の人々の首を絞めるも同然の行為で、タダで聞いてあげることは到底出来ない。 「タダじゃ聞いてくれないって……じゃあ、どうすれば聞いてくれるってば?」 可愛く唇を尖らせるナルトに、カカシは苦笑する。十分に男を惑わせる素質があるなぁ…なんて、しみじみと思いながら、ナルトにどんな条件を出そうかと考えていた。 「そうだねぇ……ナルトが先生にチョコレートくれるんだったら聞いてあげても良いかな?」 「へ? チョコ?」 思わぬ交換条件にナルトの目は丸くなる。 「そう。それもちゃんと今日中ね」 口布の下でにっこりと笑みを浮かべるカカシに、ナルトは困った表情を浮かべていた。 (チョコレートって…今持ってるのは父ちゃんにあげるヤツだから、カカシ先生にはあげられないってばよ) ここは諦めるしかないのだろうか…? だが、せっかくのイベントなのだから父親を驚かしたい。 それにはカカシに父親を呼びだしてもらう必要がある。 そんなことをグルグルと考えていたナルトは、手持ちのお財布を確認すると拳を握り締めた。 「カカシ先生、ちょっと待っててくれるってば?」 「ん?」 「速攻帰ってくるから、ちょっとだけここで待ってて!」 ナルトはカカシに指さしで念を押すと、猛ダッシュで走っていく。 「三分以内だぞー」 その後ろ姿に呼びかけ、カカシは突然出来た空き時間に愛読書である手持ちの本を読み始めた。 三分後、ボロボロになった状態でナルトが帰ってくる。 「こ…これで良いってば?」 荒い息をつきながら、ナルトは綺麗にラッピングされたチョコレートをカカシに差し出した。 「色気のない渡し方するね〜お前は」 その渡し方に眉を寄せてカカシは注意する。 「先生にあげるのに色気も何も無いってばよ!」 懸命に走って買ってきたチョコレートを受け取りもせずに文句を付ける上司に、ナルトは怒って頬を膨らませた。 「甘いぞ、ナルト。どうせ四代目にその格好でチョコレートを渡して驚かす気なんだろう?」 「う…」 計画をあっさりと言い当てられて、ナルトは思わず口ごもる。 「だったら女の子らしさを演出しないとな。いっくら可愛い女の子に渡されたとしても、そんな素っ気ない渡し方されたら嬉しさ半減だぞ〜」 「う…嬉しくないってば?」 心配げに尋ねるナルトに、カカシは神妙な面もちで頷き返した。 (いや、嬉しいと思うけどね) 心の中では反対のことを思いながら。 「『先生、大好きv』って言いながら渡してくれたら、先生すっごく嬉しいんだけどなぁ〜。それこそ、ナルトの頼みを喜んで聞いてあげちゃうぐらいにね」 先程よりも増えた条件に、ナルトの頬が更に膨らむ。 けれど、この条件さえ飲めば頼みを聞いてもらえるのだ。 「……絶対、約束守ってくれるってば?」 ジッと視線を送りつつ念を押せば、カカシはうんうんと頷く。そして、笑みを浮かべると、交換条件を提示してナルトに約束した。 「ナルトが先生のお願い聞いてくれればね」 (う゛っ……) ナルトは暫く心の中で葛藤した末、腹を決めてカカシを見上げる。 (父ちゃんに渡す時の予行練習だと思えばいいってばよ) そして、恥じらいつつ上目遣いでカカシを見つめながら、ナルトはそっとチョコレートを差し出した。 「せ…先生、大好きだってばよ……」 「俺もナルトのこと大好きだよv」 「うわ〜っ!!!」 ガバッと抱き締められ、ナルトは慌てて持っていた父親へのチョコレートをガードする。 「カカシ先生、何するんだってばよ!!」 ナルトが抵抗すると、カカシは「あ」と声を上げてナルトの身体を離した。 「悪い、悪い。ナルトが可愛かったもんで、ついなー」 笑って誤魔化そうとするカカシに、ナルトは目をつり上げて睨み付ける。 「先生、約束だってばよ。父ちゃん外に呼び出して来てくれよな!!」 危うく本来の目的であるチョコレートを壊されそうになったナルトは、原因であるカカシに腹を立てながら執務室がある方へ指さした。 「はいはい、解りましたよ。ナルト、チョコレートありがとね」 ナルトから貰ったチョコレートをヒラヒラさせると、追い立てられる形になったカカシはそれでもご機嫌な様子で約束通り四代目を呼びに執務室へ向かっていく。 その後ろ姿を見守りながら、 (よくよく考えたら、サクラちゃんに頼まなくてもこの格好だったら普通にチョコレート買えたってばよ) 先程カカシに脅されてチョコレートを買いに走ったナルトは、焦っていた所為もあって周りを気にする余裕もなくチョコレートを購入したことをぼんやりと思い出していたのだった。 「四代目、ちょっと外に息抜きに行きませんか?」 先程まで書類を取りに行っていたカカシの突然の誘いに、四代目は怪訝な顔で元弟子を見上げた。 「何、カカシ君? 君がそんなこと言うなんて珍しいね」 秘書的立場にあるカカシの監視はどの側近よりも厳しい。そのことを指して尋ね返せば、 「あんまり根を詰めすぎても良くないでしょ。少しぐらい外の空気を吸った方が捗るかもしれませんよ」 らしくない台詞が笑みと共に返される。 「……何企んでるの?」 訝しみながら追求すると、カカシは心外だと肩を竦めてみせる。 「人聞きの悪いこと言わないで下さい。別に良いんですよ。このまま仕事がしたいって言うなら、俺としてはそちらの方が助かりますから」 「いや、そういうわけじゃないけど……」 正直、執務室でずっと書類と睨めっこを続けていた四代目はいいかげん飽きが来ていた。 「か、カカシ君がそう言ってくれるなら、息抜きして来ても良いかなぁ〜?」 一応、周りを横目で見渡しながら了承を得ようとする。 カカシの提案には周りの反応も四代目と同じ様なものだったが、カカシが言うことに否やを唱える者もいなかった。 「じゃ、少しだけ出てくるよ」 とりあえずの了解を得た四代目は安堵の笑みを浮かべると、席から立ち上がり、 「みんなも少し休んでて」 そう声を掛けるとカカシを従えて部屋から出て行った。 「そう言えば、今日はバレンタイン・デーだったね。カカシは貰った?」 朝から数え切れない程のチョコレートを貰った四代目はカカシにも尋ねてみる。 「ええ」 にっこり笑いながらカカシは先程貰ったばかりのチョコレートを取り出し、四代目に見せつけた。 「何? それだけ? カカシ君だったらもっといっぱい貰えたでしょ?」 里だけに及ばず近隣諸国からも『写輪眼のカカシ』として知れ渡っているカカシだ。たった一つと言うことはないだろう。 「四代目には敵いませんけどね。一応言っておきますが、これは本命からです」 口元に持ってきて笑みを浮かべるカカシに、四代目が驚きの声を上げた。 「ええっ!?」 「うっふっふ〜」 機嫌良く気持ちの悪い笑みを浮かべるカカシに、四代目の眉が寄せられる。 「だ…誰からとか訊いても良い?」 口元を引きつらせて尋ねれば、カカシは無言で首を振って拒否を示した。 「内緒です。でも、とても可愛い子だということだけは教えておいてあげますよ」 カカシの常にない上機嫌さに、四代目は悪い予感がしてたまらなくなる。 (ま…まさか、ナル君からとか言わないよね???) 不吉な考えに四代目の頭は段々と項垂れていった。 「火影様っ」 その時、木の陰から一つの影が四代目の前に飛び出す。 「へ?」 間の抜けた声を出しながら四代目が顔を上げると、そこには一人の少女が立っていた。 「あ、あの、コレ、受け取って下さいっ」 金髪の少女が差し出したのはチョコレートと思しき物。 「…………………………これを、オレに?」 長い沈黙の後、四代目は少女からチョコレートを受け取った。 「はい」 頬を染めながら、少女──ナルトはコクリと頷いた。 (おいおいおいおい…俺の時とは随分と態度が違うんじゃないの?) その様子を見ながら、カカシは心の中で激しく突っ込む。 (まぁ、こっちが本番なんだから当然と言えば当然かもしれないけどねぇ…) それでもやはり不服を申し立てたくなるような違いだった。 「ねぇ、カカシ君」 「……はい?」 振り返った四代目は柔らかな笑みを浮かべて自分を見つめていて、カカシはそれにイヤな予感を覚えながら応える。 「オレ、これからこの娘とデートしてくるから、あとお願いね」 そう、にっこりと笑ったかと思ったら、四代目はカカシの返事も待たず少女の身体を抱きかかえて姿を消したのだった。 「瞬身の術は便利で良いねぇ…」 予想していたこととはいえ実際に目前逃亡されたカカシは、二人がいなくなった場所を見つめ、頭を掻きながら呟く。 「やられた方にとっちゃ、とてつもなく厄介だけど……さて、他の皆さんにはどうやって説得したもんかな? やっぱり責任は俺になっちゃうのかねぇ?」 そう考えると軽く憂鬱な気分になって、カカシは深い溜息を吐き出した。 「ま、夜はしっかり働いてもらうってことで勘弁してもらいますか。それに、報酬も戴いたことだしね」 手の中のチョコレートに目を落とし、カカシは小さく笑みを浮かべる。可愛い弟子の喜ぶ顔が見られるかと思えば、少しぐらいの嫌なことも我慢する気になれた。 「さて、そろそろ戻りますか」 自分に言い聞かせると、カカシは何事もなかったかのようにその場を後にした。 ナルトはカカシが父親を連れ出してくるのを木の陰でこっそりと待っていた。 (カカシ先生遅すぎるってばよ) なかなか現れずやきもきしていると、聞き馴染んだ声が向こうからやってくる。 (来た!) ナルトは四代目とカカシがすぐ側まで来ると、隠れていた場所から一気に飛び出した。 「火影様っ」 「へ?」 ナルトの気配に気付いていなかったらしく、突然の呼びかけにらしくもない間の抜けた声を発して、俯いていた顔を上げた。 「あ、あの、コレ、受け取って下さいっ」 いつもとは違う普通の女の子の口調でナルトは四代目にチョコレートを差し出す。 (うっわ! ドキドキするってばよ!) まるで本当に告白する少女のように(この場合はイタズラがバレるかバレないかというスリリングな状態な為だが)、ナルトの心臓は大きく脈打っていた。 そんなナルトの心情を知ってか知らずか、四代目は差し出されたチョコレートをジッと見つめているだけで何の反応も示さない。 (ば、バレたってば?) 何も口にしない父親にナルトは段々と心配になってくる。 「…………………………これを、オレに?」 長い沈黙の後、ようやく四代目はそう口にするとナルトからチョコレートを受け取った。 ──どうやら変化は見破られていないらしい。 ナルトは安心すると、うっすらと頬を染めながら頷く。 「はい」 しとやかな態度の裏で、ナルトは成功した計画に万歳三唱をしていた。 (さぁて、用も済んだことだし、さっさと逃げるってばよ) そう思って一歩足を動かそうとした時、四代目が不意にナルトから視線を外し、後ろにいたカカシを振り返った。 「ねぇ、カカシ君」 そう声を掛けた四代目に、訝しげな声と表情を隠しもしないカカシが返事を返す。 「……はい?」 そのカカシの反応にも気にすることなく四代目は柔らかな笑みを浮かべると、とんでもない爆弾発言を口にした。 「オレ、これからこの娘とデートしてくるから、あとお願いね」 (へっ?) 成り行きを見守っていたナルトの耳に思わぬ台詞が入ってくる。 そして、気付いた時には四代目に抱き上げられ、瞬身の術によってその場から姿を消すことになったのだった。 |